翻訳指導上の注意点

師走到来。今年もあっという間だったなあ。にわかに忙しくなってきたので、備忘録的に整理しておこうと思う。

 

1.翻訳者としての責任

自分ならその訳文に金を払うだろうか。論理が不明瞭な訳文、読むに堪えない訳文に付加価値はない。特に金融翻訳の場合、事実関係の確認、(投資家目線の)具体化・補足・意訳は当然必要になる。「所詮は好みの問題」と切り捨てるのは簡単だが、クライアントの満足を得られなければ、真のプロ翻訳者にはなれない。翻訳が上手とか下手とかいう問題よりも、読み手の視点を持っているかどうかが重要になる。ただ漫然と(教科書通りに)翻訳しているだけでは、翻訳会社が求める「売れる」翻訳者にはなれない。金融分野でも、助手としては新人翻訳者よりもMTの方がまし、という時代が来るかもしれない。

 

2.無知の知

「気づいていないこと」に気づいてもらう。論理解釈や英文解釈は的確か、日本語の歪みはないか、ドキュメントとの整合性や原文との距離感の取り方に問題がないかなど、受講生の癖を見抜いてコメントする。

もう一つ、「知らないこと」を知ってもらうことも重要である。課題や実案件の例題を通じて、どのような分野(知識)を強化していく必要があるのか、認識してもらうことが成長の第一歩。

 

3.個性と伸びしろの見極め

翻訳に関して言えば、個性や癖はそう簡単に消えるものではないが、同じ内容の訳文なら、読みやすい・直しやすいほうが良いに決まっている。翻訳は、どちらかと言えば「消去法」の作業である。「原文=正解」と考えて延々と自己流の翻訳を続ける学習者よりも、クライアントのニーズに合わせようと日々訳文を見直している学習者の方が伸びる。

伸び代やポテンシャルが感じられる(そして、素直な)学習者は、現場に推薦することにしている。逆に、柔軟性のない人やすぐにポシャりそうな人は、いくら優秀であっても、取ろうとは思わない。あと、言語感覚が悪い人とかね。